1月31日(木)リーガロイヤルホテル広島で開かれた新年例会で、日本銀行広島支店の住川雅洋支店長が『日本経済の現状と課題』(私論)と題した講演を行った。講演の要旨は以下のとおり。
景気循環のヤマは平成12年10月-12月をピークにして、それ以降日本経済は下降している。昨年1年間で製造業の生産水準は、14~5%下がっている。私の経験上こんなにベクトルが急に下向きになったのは初めてだ。しかし、在庫調整局面の第3コーナーを回ったあたりの感じはしている。
日銀は金利ターゲットの金融政策から、量をターゲットにした金融政策に変えた。マーケットには、マネーがジャブジャブにあるはずだが、金融システムの中のマネーが実態経済にしみ出していない。マネーは国債や米ドル債の購入に回り、マネーサプライにはねかえらない状況。民間金融機関の貸し渋り、資金需要があるのに供給していない。もしくは、ビジネスチャンスがないので、お金は貸してもらう必要はないという2通りの理由があるだろう。果たしてどちらが正解なのか。
貸し出し金利は1年前より下がってきているのに、なぜ実態経済にしみ出さないのか。企業の期待収益率が下がっているからではないか。期待収益率が極端に下がり、日本経済のリスクプレミアム(将来の不確実性)が上がると、前向きな投資が誘発されることはない。リスクプレミアムが高くなっていることは事実だろう。
日本では今後10年から15年で第一次ベビーブーマーが、雇用マーケットから退出する。この人達が、一気に年金、介護保険、健康保険の受給者になる可能性が高い。いまの日本経済の社会的な仕組みでは、そうなったら日本経済は持たなくなると考える人が多いのではないか。
日本人の教育水準は高く、金融資産の蓄積もある。勤労意欲も十分ある。日本のこれらの要因を個々に見ると、日本経済に対して、低迷しているとか閉塞感を感じる必要はない。個々の組み合わせが、本来のファクターの力を発揮させるようになっていない。
外交、防疫、警察など最低限のものを公共がやって、それ以外は民間にまかせ、政府はモニタリングするだけでよいのではないか。
日本ほど仕組みを早く変えなければ対応できなくなるくらい、人口の年齢別の移動が大きい国は先進国の中にはない。10年15年先には我々が期待するほどの社会保障サービスは受けられないのだから。社旗保険を民営化すると、4つのメリットがある。
(1) 民間のビジネスチャンスが広がり、期待収益率が上がる
(2) 政府が小さくなり、税金が少なくてすむ
(3) 競争が起き、国民の選択肢が広がる
(4) 効率が良くなり、料金が下がる
また、政府は、公共財・公共サービスのあり方について議論する必要がある。民営化は公社公団の問題ではなく、国民の税金で運営する政府が提供する公共サービスが、どの程度でどの範囲であるべきなのかを議論すべきだ。郵政3事業のように改革しなければならない事業は他の省庁にいっぱいある。
赤字が累積しているから公社公団化するのではなくて、「赤字が出るから公がやる」のが当たり前。非効率な運営から効率的な運営に改めることが重要なのであって、政府が行う公共サービスの基準ではない。
住宅投資を進める場合など政府が直接事業を行うと、税金を湯水のごとく投入するから市場を歪めてしまう。住宅金融公庫を廃止したら、庶民の夢がかなわなくなるという意見があるが、これは間違い。民間金融機関と公庫の金利の差を住宅取得控除として、国民に補給することを年に1回やればよい。
個々の改善をして収益期待率を上げる。そして、社会保険を民間に開放すべきだ。リスクプレミアムを早急に下げる作業をしなければ、円安が進み、国債が売られる。「日本売り」にならないように、構造改革と先行きを見据え国民全体で議論して日本経済のビジネスモデルを作ることが重要。
今は短期の景気循環上の需要が落ちて底になっている状況。社会の仕組みを変えるには、国民的な合意が必要で、時間はかかる。コストを少なくするにも時間がかかる。しかし、時間がかかっては元も子もなくなる。短期の景気循環対策には構造改革とは別の視点が必要。それは需要管理の考え方だと思う。政府支出か、政府支出が今の日本にとって良くないというなら、民間の需要を出す。そのためには可処分所得を上げる。可処分所得を上げるには税負担を下げる、つまり減税するということ。短期の景気循環対策をしないと景気の谷がますます深くなる。本来つぶれなくてもいいような会社がつぶれてしまう。政府支出か減税のどちらかをやらなければならない。
構造改革とは別に短期の景気循環対策はやるべきだ。デフレ経済下に緊縮経済で、景気の谷をますます深めることは、わざわざ失業率を上げ国民が苦しむことにつながりる。そのようなことようなことを起こすべきではないと思う。
もうひとつ「規制緩和」については、時間が足りなくなったので、話すことができなくてすいません。
(文責 事務局)