日本貿易振興会海外調査部
中国/北アジアチームリーダー 藪内正樹
講演要旨
2002年2月18日(月)
ホテルグランヴィア広島
中国は急速に変わった面もあるが、いっこうに変わらない面もある。そういう所がこれから中国とのビジネスをしようとする人に、非常に分かり難いのではないか。昨年くらいから中国は「世界の工場」と称されたり、「台頭する中国」という雑誌の特集記事が組まれたり、非常に注目されてきている。数字で見ると98年以降の4年間、7%以上の実質成長率を維持している。2000年にはGDPが1兆ドルを超え、世界7位の経済規模になった。貿易については、90年代輸出入ともに年平均13%の伸び率という目覚ましい成長を遂げた。輸出が牽引する経済成長と言って間違いない。
一方、輸入も急増しているのは、中国に外資系の製造業が次々と進出して、外国から原材料・部品を輸入して加工組立をして輸出することが拡大しているからだ。その結果、経済成長を引っ張っている。言い換えれば、中国の工業化は外資系企業の貢献で進んでいる。既に、粗鋼、化学繊維、カラーテレビ、エアコン、洗濯機、冷蔵庫の生産は、中国が世界のトップシェアを占めている。中国のITハードウエア生産は米国、日本に次いで3位だが、伸び率は38%の高さだ。
中国の2000年の輸出額のうち49.9%は、外資系企業の製品である。さらに外国企業からの委託を受けて製造しているものを含めれば、60%くらいになるのではないか。「世界の工場」の実態は、外資系企業の活躍で実現している。
何故これほど中国に投資が集中するかというと、第1に、安くて優秀な労働力が豊富にあることからだ。高価な設備を導入するより、桁違いに安いコストで同じ作業ができる。第2に、道路、港湾、電力などのインフラの整備が進んだこと。第3に、ここ2~3年注目されるのは、部品産業の集積。機械類の加工組立の人件費は、製品の5~8%くらいで多くても10%だが、最も大きいのは部品材料の調達コストだ。コスト競争は、部品材料の調達コストを下げることだ。部品メーカーが中国に進出し、部品も安くなってきた。90年代前半に日本のコピー機メーカーや台湾のパソコンの部品メーカーが進出した華南が、いまや「世界の工場」と言われている。華東にある上海は現在中国で最も購買力を持つ市場である。戦略を持った台湾企業などが、中国市場に参入する拠点として華東の上海周辺に工場を立地、流通網を形成している。集積がさらなる集積を生んでいる。
反面、中国が抱える国内問題はいくつかある。国有企業の不良債権の問題。市場自由化に伴って、幹部の不正腐敗は是正されなくてはならない。共産主義の政治と経済の自由化との矛盾など、中長期的に、どうするかが問われる時が来るだろう。
結局、現状は中国自身が強くなったのではなく、中国をうまく利用した外資系企業が強くなってきていると認識しなければならない。中国脅威論は的外れだ。中国が脅威なのではなく、中国の条件を活用している外資系企業が競争力を強めているのだ。中国の強みは労働集約型、大量生産などだ。汎用ICなどは中国で作られるが、高度な半導体は、日本、韓国などから中国に輸出され、その金額も年々増えている。このように中国に生産移転するものとしないものがある。高品質な素材は輸入に頼っている状態。
関税は引き下げられ、輸入の数量制限が削減されていくので、日本から中国への輸出のチャンスは増える。多くの製造業は中国で生産できる体制をとっているが、日本製のものとの競争力を見なければならない。品質の差が大きいのは自動車だろう。中国の乗用車メーカーは全部外資との合弁だが、中国で部品から製造された自動車は、輸入車に比べて品質が悪いので、価格が高くても輸入車の需要は高い。関税が大幅に引き下げられると、輸入車の需要はさらに増大すると見られている。こういうことから中国の国産品としての自動車、機械、有機化学品、穀物、綿花などには競争力がなく、打撃を受けることが予想される。銀行、保険、流通、通信は段階的に開放されるので、ビジネスチャンスが出てくる。
「ローカルコンテンツ、輸出比率、外貨バランス」の要求が、撤廃された。全ての規則を公表し、透明性を上げる。
特許法、商標法、著作権法が改正され、模倣品などへの対策は一歩前進した。
しかし、法律やルールができても現場の人間がすべてそれに従うとは限らない。現場の人間は、自分の利益で動くというのが中国の現実なのだから。
最近中国ビジネスは多様化してきたと思う。従来のビジネスは貿易か投資だった。最近は提携関係が目につくようになってきた。何でも自社でやるというフルセット型からグローバル化に対応する複数の社が持ち分を提供しあい最適化を図っていく。中国人にモノを売るときには、中国人が売ったほうがうまくいくのは当たり前だ。利用できる経営資源を持った中国企業が出てきた。例えば、三洋とハイアールは、販売・サービス網をお互いに利用する目的が合致して提携をした。また、ホンダのコピーバイクを作っていた中国のメーカーとホンダが提携したというニュースは、画期的だった。なぜここまで安くバイクを作れるのかという驚きが、ホンダをして、「学ぶべき何かを持った企業」として提携を決意させたそうだ。今まで中国との合弁というと、金も技術も全部持って来てくれという、あなたまかせだったが、改革開放後23年経過して対等なパートナーとして注目すべき企業が出てきた。
一方、ビジネスでトラブルが起きた時のことを考えて、詳細な内容を盛り込んだ契約書を作っておくことが重要だ。トラブルが起きると、外国人に有利な結果は決して出ない。ビジネスの前にお互いの考えを徹底的に話し合っておいた方がよい。中国人は、議論しても後に尾を引くことはない。
また、日本流の「相手に察してもらう」というやり方は通用しない。横並びの人事・労務管理も、中国では通用しない。信賞必罰は決めたとおり実行しないといけない。重要な仕事だからと日本人だけでやっていると、中国人には出世のチャンスがなくなると、思われる。優秀な社員には、しかるべき地位、待遇をすると明確に示して実行しないと、中国人はすぐに欧米企業に行ってしまうだろう。
WTOに加盟すると、中国は世界の企業にチャンスを提供する競争の場になる。中国の人材や条件を活用し、優位性 を持った企業と提携して、いかに競争に勝つかが重要だ。
(文責 事務局)