NECソリューションズ
執行役員常務 海東 泰 氏 講演要旨
2002年8月28日(水)
リーガロイヤルホテル広島
人類の歴史上長い間農耕社会が続きましたが、200年前、産業革命で工業社会に入りました。そして、IT革命により1990年ごろ米国は情報化社会に突入しました。情報化社会の特質のひとつは大量で高速の情報量が伝達できることで、その結果、情報は直ちに国境を越えるようになりました。
また、携帯・移動体通信の発達で、いつでもどこでも誰とでも情報のやりとりが可能になり、従来のような情報格差も無くなり、社長が従業員に語りかける或いは従業員が社長に直接話をするというフラット型に変わりました。このように情報化社会が進みますと、社会が均質化します。その情報化社会は世界のパラダイムを冷戦構造からグローバリゼーションへと大転換し、グローバリゼーションは新しい時代の流れになりました。グローバリゼーションは世界規模での市場の創造、世界最適地での生産を可能にしました。
グローバリゼーションとは何より米国型の価値、制度、標準、システムなどの世界伝播でもあるわけです。そうした時代における中国について、本日は4つの点から説明します。
私達日本人の中国に対する認識は、人口と国土が大変大きな国だというものでしたが、今日の中国のGDPは世界第七位で、イタリア、フランス、イギリスの背中がもう完全に見えています。今年の国家予算は米国、日本に次ぐ第3位の34兆円規模です。昨年は 7.3%と世界でも例外的な成長を示し、今年も上期の数字は 7.6%と大変順調な滑り出しです。外国企業の投資も活発で、7月単独の対中投資は実行ベースで前年比41.8%増49.6億ドルになっています。今年の対中外国投資は 500億ドルを優に突破して過去最高に達する見込みです。
2001年の世界の貿易は 4.2%減と前年割れしましたが、中国だけは順調に伸び、輸出は 6.9%、輸入は 8.2%のプラス成長でした。輸出だけでなく国内でも消費が活発に伸びています。この10年間の個人消費は年平均15%の成長で、10年前の4倍に膨れ上がっています。
80年代アジアの産業形態は、日本を頭として中国やインドが足の先という雁行型でありましたが、今日ではエレクトロニクスを主とした生産体制を見る限り、中国を中心とした放射状型に変化してきています。この背景には中国政府の改革開放政策の下、グローバリゼーションの潮流の中で外資 企業の進出・裾野企業の発展・現地企業の発展という産業集積サイクルの好循環があります。
さて、中国の経済圏は沿岸部に6つあります。北の東北三省地域、元々国営企業中心の重工業地帯です。また、清の支配者たちを産んだ土地で朝鮮語や日本語が達者な人が多い地域です。
北京・天津地域はソフトやR&D拠点などIT産業が集中し、IT人材も多く輩出しています。
山東半島は温暖な気候による農産物の生産地であり、日本向けの加工食品、冷凍食品の生産拠点として大きく成長してきています。
台湾の向かいにある福建省は台湾との結びつきが大変強く、工業や農産物の輸出拠点となっています。
珠江デルタは、1979年深せん(土ヘンに川)等が経済特区になったことから、香港系・日系・台湾系企業が進出して発展しました。労働コストと部品の調達コストが安く、輸出依存度の強い地域です。
長江デルタは金融と商業の上海を中心として、蘇州、無錫、杭州、寧波に広がる地域です。この地域には日本の主要製造業の約 1/3の企業が何らかの形で進出しているとも言われ、主として国内向ハイエンド製品の生産基地と位置付けられています。この地域を華東地区と言います。上海は北京、香港、大阪から同じような距離に位置し、関空から約1時間45分で行けます。日本の13の空港から週 138便の飛行機が飛び、日本の各地が華東地区の経済地域にしっかりと組み込まれていると言えそうです。
中国が抱える大きな課題のひとつは人口と富の偏在です。1人当たりの平均所得は沿岸部 1,150ドル西部は 480ドルと、2倍以上の差があります。もっと酷いのは上海市と貴州省で、13倍の差があります。1つの国で富の偏差は10倍が目安と言われ、国の統治という点で大きな課題と言えそうです。人口は都市部と農村部で大変にバランスを欠いています。中国では戸籍制度が大変厳しく農村の人は都市の戸籍を取れません。農村の方が都市の戸籍を取るのは、人民解放軍に入って将校クラスになることと都市の大学に入る事だそうです。
第2の問題は財政赤字で、2002年は5兆円の歳入不足です。これまでに約 5,100億元(8兆円)の国債を発行し、今年も昨年と同規模の国債発行を決めており、国債への依存度が高まる一方です。
第3は構造改革(行政機構、国有企業と金融制度)、第4は年間に 1,000万人の人が職を求めると言われる雇用対策も大きな問題です。こうした人達に仕事を与えるには経済成長率は最低7%の維持という訳です。 中国の課題の最後は環境です。エネルギー消費量の70%は石炭が占めることから都市部で大気汚染が起き、国土の3割が酸性雨の被害を受けています。また北京60kmにまで砂漠化が進行し、砂漠面積は国土の27%に達しているとも言われています。長期的な気象変動や上流地域での過大な用水で、黄河は河口遥か手前で断流するという現象も起きています。
日本企業の中国投資は現在第3次ブームを迎えています。2001年度の契約件数は2003件、実行額は前年比53%増の46億ドルと過去最高を更新しました。第1次、第2次ブームは中国が外資の誘致作戦を展開しましたが、第3次ブームは日本企業が押し寄せているという意味でブームに変化があります。進出先は華東地域が急増しています。
日中貿易はこの10年順調に拡大し、とりわけ中国からの輸入の伸びが著しく入超の額は増える一方で、2001年では過去最高の 270億ドルの入超となっています。そして94年以来9年連続、中国は日本にとって最大の貿易赤字国です。2002年の輸出入総額で、900億ドルを突破するのは確実と見込まれています。貿易の中核を成すのは、輸出は電気機器、一般機器の順番で、輸入では繊維、電機です。
日系企業の中国進出は自ずと中国の産業政策と共に歩んで来ました。70年代は自力更正と言って、中国は他国に頼らないと言いました。しかし、80年代の技術移転は求めますが生産は自力でやる技貿結合は失敗しました。90年代には技貿結合の技は生産技術に変わり、これが大変成功しました。そして今後中国は研究開発とソフトウェアに絞られており、この分野での協力が求められるでしょう。
日本企業が中国事業で直面する最大の課題は、収益をいかに上げるかにあります。第2は債権回収です。出来るだけ支払いを延ばそうというのが一般的で、中国の経理部長は支払いをしないのが有能な部長だと言われているようです。
また世界に出回る模倣品の1/3が中国で作られていると指摘されているように遵法意識が低い。中国は法治の国ではなく人治の国と言われ、制度運用が不透明で、規制も多くしかも突然変更します。次に日本的経営の難しさについて触れます。
中国に進出している欧米企業と日系企業を比較すると、日本企業はまず本社にお伺いをたてたり、意思決定のプロセスがなかなか分かりにくく、幹部には日本人が必ず就くというのが一般的です。一方、欧米企業は長期的な戦略を持って明確な役割、責任分担、或いはまた中国人或いは欧米に住んでいる華人の人脈を活用して中国人をトップに据えます。従って中国のやる気ある若い人たちは欧米企業を志向し、優秀な人材が日系企業に集まりにくい状況です
中国では離職率が大変高いので、マニュアルが整備されている欧米企業は対応が可能ですが、日本企業は突然辞められてオタオタすることがしばしばです。これらはいずれも日本的経営スタイルに起因していると考えられます。
台湾企業はどのように対応しているかと言いますと、現地トップに権限を徹底的に委譲してしまうから意思決定が大変迅速です。また大変ユニークで日本人が真似の出来ない点は、大陸に進出している台湾企業は台商協会を業界別に作って各地方に置いていることで、代表者が中国当局と交渉や要請を行うことで中国当局との間に大変良好な関係が築かれています。
また中間管理職を含めて、工場労働者の管理は、信賞必罰をベースにして大変厳しくやっていることも我々が学ばなければいけない点だと思います。
中国のIT事情は、固定電話が平均22%伸びて、昨年末で1億 7,900万加入を記録しました。この7月末時点でなんと2億100万人、携帯電話も昨年は1億4,500万加入と世界最大の加入者を記録しました。今年に入って3,500万加入、毎月500万人携帯電話の加入者が増えるという恐るべき状況です。
パソコン市場はデスクトップ型が中心に平均で81%伸びています。この上半期の販売台数は489万台、前年比50%増です。また中国旅行から帰えられた方からは「中国の何処でもインターネットができた」とお聞きしますが、今や中国のインターネット人口は5,660万人、日本を抜いて世界第2位になり、3、4年後は2億数千万になると言われています。
中国のIT産業について述べますと、Legend(パソコン)華為(テレコム)等優秀なメーカーが陸続と育ってきています。が、総じて開発力が弱く、独自の開発力強化を進める一方、外資誘致にも熱心です。ソフトウェア産業は企業規模が50人以下の企業が圧倒的に多く、高度で大規模なソフト開発力が弱いとされています。このため、低コスト化で競争力の維持や国家主導で多くのソフトパークが設立されています。
半導体はIT産業のアキレス腱と言われています。中国のIC自給率は僅か2%で、残り98%は輸入に頼っています。中国政府はこの自給率が低いことに大変問題意識を持って各種の優遇制度を打ち出し、企業誘致に躍起です。中国における半導体事業は、2010年には世界第二の市場になるとも予測されています。
中国はこの20年で世界最大の家電生産・消費国になりました。供給過剰を価格競争の激化が生じ、地場企業と外資企業とのグローバル提携も進んでいます。グローバル企業に成長した海爾(ハイアール)についてふれます。売上高も約1兆円、従業員3万人、欧米31ヵ国に販売拠点を持ち、冷蔵庫は世界最大の生産量を誇り、米国では中小型冷蔵庫のシェアを25%持っています。三洋電機と提携し、日本の三洋電機のチャンネルで海爾の製品を売り、中国の海爾のチャンネルで三洋電機の製品を売る。海爾の成長要因はお客様に本国の細かいサービスを提供する傍ら、従業員には詳細な就業規則を作って、厳しく管理するといったことが指摘されています。
新車販売も好調で、外資メーカーの進出も盛んで、2001年度は236万台売られ、2010年には400万台突破と見られています。自家用車の保有率は1所帯あたり日本は86%、上海は僅かに1%ですが、月平均所得8万円ぐらいの人が150万から200万円クラスの小型乗用車を買うというブームです。自動車産業はWTO加盟で影響を受けた産業の一つと言われ、そして地場の119社ある自動車メーカーは恐らく3社に絞られるだろうと言われています。
中国事業展開にあたっては、色々留意しておくことがあります。中国固有という点でいえば、商いの難しさ、司法リスク、労務管理等に加えて、諸侯経済という特徴を知っておくことが大事です。
広い中国は風土から民族、文化、産業が大変異なり、自ずと政策や制度も地域によって異なります。中国の言葉に「上に政策あれば下に対策あり」という言葉があります。中央の政策に対し地方政府がそのエゴで捻じ曲げることをいう言葉だそうです。つまり中国で経済活動を行っていく上では、一つの省を一つの国とみなして付き合う方が分かりやすいのではないでしょうか。
事業戦略上のキーポイントは多々ありますが、知的財産戦略はとりわけ重要な項目です。
とりわけノウハウのブラックボックス化、つまり自社の技術ノウハウが盗まれない仕組みを作ることが大変大事です。
また中国では大変迅速に動きますから、我々も大変迅速性に常に戦略的に動いていく必要があります。
中国でのビジネスの成功は良きパートナー次第と言われます。また、日本と中国は漢字文化とか一衣帯水といったふうに共通したり共有する部分も多くありますが、行動や思考パターンは大きく違いがあることを認識することが大切です。
グローバリゼーションの時代とは、国際競争の時代とも言えます。市場を知り、相手を知って、したたかに生き残りたいものです。
最後に、各社様の中国ビジネスのご成功をお祈りして、私の話を終わります。馬到成功(マータオチュンゴン)!
(文責 事務局)